らくだと冷蔵庫
  
 こんな風に笑い話めかして語るのは筋違いだとは思うのだが、なんだかとても信じられないような映像を見た。人に曳かれて砂漠を進む一匹のらくだである。その背中に冷蔵庫と太陽電池のパネルが積んである。冷蔵庫の中身はワクチン(なんの病気に対するワクチンなのかは忘れたが、子供用のものだった)だと伝えているから、そんなユーモラスな現実でないことは明らかである。

 でも、「ギラギラと輝く太陽と砂漠とらくだ」というキーワードから浮かぶ風景は、定番かもしれないがシルクロードの世界であるとか、我々の世代ならば映画「アラビアのロレンス」そのままだろうし、それでなければ童謡「月の砂漠」の王子様の姿であろう。
 にもかかわらず、そのらくだの背中の横倒しに積まれた冷蔵庫、そしてそれを作動させるために一緒に揺られているその冷蔵庫よりも大きな太陽電池パネル、そして雲ひとつない青空と直角の太陽が醸し出す映像はなんだかすざまじい違和感だった。

 それは日本の太陽電池パネルメーカーの世界進出への苦闘を語るNHKの番組、プロジェクトXの一場面だったのだが、同時にその違和感はとてつもない愉快さであり、なんだかとても心落ち着かせるものだった。「頑張ってるな日本 !、一生懸命だな日本 !」、そんな気がしてどこか応援したくなるような風景であった。

 ワクチンを高温から避けて運ぶ手段としては色々あるだろう。魔法瓶のようなスタイルでもいいだろうし、発泡スチロールの冷蔵ボックスに入れるのでもいいだろう。これだけ交通機関の発達している現代である。しかもワクチンを投与すべき子供がいるということは、その地が少なくとも集落として存在していることを示しているのだろうから、そうだとすれば保冷車は使えないのか。もしくはヘリコプターや小型飛行機などを使っての輸送はできないのだろうか。

 恐らく困難な事情があるのだろう。だからこそこんな手段による輸送になったのだと思うのだが、それにしてもこんなとてつもない輸送手段を誰が考えついたのだろうかとそのとてつもない発想にただただ唖然として見ていた。

 発想の豊かさには色々あると思うが、ほぼ完璧な弾力性を持つスーパーゴムが、自らの体長の100倍もの距離を跳ぶ蚤の足の付け根の筋肉の研究から見つけられたという話を聞いた。この理論は一生に5億回も羽ばたくと言われているミツバチの羽の付け根の筋肉とも共通すると言う(05.12.08mp通信)。

 このほかにもヤモリの足を真似た粘着テープなど、「ああ、人はけっこう一生懸命やってるんだな」と感じさせるものが世の中にはけっこうあることを教えてくれる。

 そしてそれは、研究とは夢なのだと改めて我々に愉快さと真剣さを教えてくれる。
 冷蔵庫を運ぶらくだの映像は久し振りになんだかとてつもない嬉しさを私に教えてくれたのであった。


                     2005.12.18    佐々木利夫



           トップページ   ひとり言   気まぐれ写真館    詩のページ