沖縄にある60メートル×10メートルの草ぼうぼうの荒地を畑に開墾して、そこに小豆やモチ米の作付けをするというテレビ番組を見た。

 スタッフと言うか司会者のひとりがその荒地の前に呆然とたたずんでいるところから番組は始まった。私はこれは大変な番組だと思った。そして大変だけれどいい企画だとも思った。それほど大きな面積でもないし、沖縄なのだから北海道の開拓に見られるような冷害や凶作などの恐れのないだけ多少気楽な感じのしないでもないが、それでも人力で荒地に立ち向かい汗による開墾を見せるなど最近にない力のこもった企画であると思った。

 ところが男一人呆然とたたずむ風景は一瞬でしかなかった。カメラの陰に隠れていたこの番組のファンと称する子どもたちが30人ばかりどっと押し寄せ、手作業で草むしりを始めたのである。

 ひとりで汗して開拓の厳しさを表現するのかと思っていた私にとって見れば、この多人数による草むしりは足をすくわれたような感じがして意外であった。それでも多人数といえど子どもである。子どもに開墾と農業の厳しさを体験させるのも悪いことではない。

 だがだが、草むしりの映像もあっと言う間に終わったのである。草むしりが終了したというのではない。なんと人力、それも子供による草むしりではなかなか作業がはかどらないと知るや、子どもの親と称する大人が轟音とともにショベルカーに乗って颯爽と登場したのである。

 草ぼうぼうは見る間に消え、重機を使った土地は間もなく畑となっていった。そしてこの畑に種を播くのだがその前に土の育成である。豚の糞におがくずを混ぜて醗酵させた堆肥をすきこんで一週間ほどなじませる作業が必要となるのである。それもこれも、そうした作業に近隣らしい農家の朴訥なオヤジさんの意見と姿は映されているものの番組のスタッフの姿はもとより子どもたちの姿もそこにはない。

 画面は突然、スタジオへと移る。当然に草ぼうぼうの荒地に呆然とたたずんでいたスタッフもその場ににこやかに座っている。そしてカメラに向かってこんな風に言うのである。
 「よろしくお願いしますね」

 もちろん話しの相手は沖縄の農家のおじさんである。つまり、この畑の管理はすべてこの農家のおじさんに任されていると言うことである。種まきをする映像もなかったから、恐らくそれも含めて日々の管理のすべてをこの農家に委ねたのであろう。

 結果としてこの畑は荒地から収穫までの全部を人任せにしたのである。番組のスタッフからは開墾の嘆きも、開拓の苦しさも、毎日の雨や風や気候に対する不安も、防除への備えも、水の管理などの心配も何一つ伝わってこなかったのである。
 それはそうだろう。開墾も含めて管理はすべて人任せであり、2〜3本の草むしり以外はなんにもしなかったのだから。

 1月に植えた小豆は5月頃には収穫され、その後に植え付けするモチ米は10月には採れるだろうとのことである。同時進行らしく、まだ小豆の発芽も見られないと農家は伝えていた。
 テレビのイイトコドリの風潮はこんなところにも見ることができる。著名人の司会者は管理している農家に対してなんと「芽はでましたか」と聞くしまつである。そして「毎日のお世話ご苦労様でした」の一言を残して番組は終了した。

 10月になったらこの番組は、収穫されたモチ米であんころモチを作るところを映し出すことだろう。そして子供たちも交えてスタッフ一同、美味そうにそれを食うのだろう。なんたって、草ぼうぼうの荒地からこんなにも美味いモチができたのだから・・・。
 しかもその美味さには有機栽培、無農薬、地産地消などがたっぷりと味付けされていることだろう。
 荒地から作られたおいしいモチを一瞬で食べることができる、そうした手品をここに見ることができる。しかも自分で苦労して作ったという満足をも上乗せして・・・。

 これではまるでブラックボックスである。この箱の一方に草ぼうぼうの荒地を入れてやると、もう一方の口からあんころモチが出てくるのである。

 こんなやり方をするのなら、わざわざ草ぼうぼうの荒地の前にスタッフを立たせる必要などなかったはずである。「それでは朝顔の成長を記録したビデオがありますので、それを見ながら一緒に勉強しましょう」と、小学校の先生が生徒に対して教育テレビの番組を見せることの方が嘘のないぶんだけずっとましである。

 つい先日、テレビの人気番組であった「あるある大事典」で、納豆ダイエットの放映が捏造データや嘘の証言を使ったヤラセ番組だったとして世間を賑わしている。そして今日、ハイパーソニックと称して2万ヘルツ以上の音を聴くと脳にα波が生じて集中力や記憶力が高まると放送していた番組が、これまた実証データのないものだったことが暴露された。

 ガン予防に効果があるとしてブームになったベーターカロティンも多く採り過ぎると肺がんになる危険が増すことが立証されたり、ビタミンEの多量摂取も死亡のリスクが高まると言われるなど(朝日新聞2.8)、テレビにはダイエットや健康などに便乗した胡散臭い番組が氾濫している。

 それらは「疑似科学の氾濫」と呼ぶのだそうだが(朝日、同)、放送する側の責任はもちろんのことではあるけれど、それを見ている人々の無批判な依存体質、依存風潮もまた止まるところを知らずに拡大していくばかりである。



                          2007.2.10    佐々木利夫


            トップページ   ひとり言   気まぐれ写真館    詩のページ



草ぼうぼうの荒地