最近のお母さんの話し方が変だ。若い娘が結婚してお母さんになっていくのだから、年齢層が徐々に高くなっていくのは当然のことなのだろう。しかし「娘」と「お母さん」とは、イメージとしては子供と大人みたいな感覚の違いが私にはあるので、何となく耳慣れない言葉遣いが大人の世界にまで広がってしまっている・・・、そんな気がしてしまった。

 「とか、とか、しー、しー」という言葉遣いは、物事を言い切らないで中途のままだらだら続くのである。普通ならば仮に一つや二つ「とか」を続けても、最後には「・・・だと思います。」であるとか、「・・・だといいですね。」などの終止符がつく筈である。それがどうしたことか結語がなく、「・・・とか・・・・、とか」のままで話が終わり、それを受けた相手もそのことを了承したままに会話を続けてしまうのである。

 もちろん私だって、これまで書いてきたたくさんのエッセイの中には、けっこう「とか」という接続詞を使って文章を続けているケースも多いから、そうした表現を否定してしまうようなこうした発言にはどこかおこがましを感じてしまうことは事実である。

 だが、少なくとも私は文章を「とか」のままで終わらせることはしていないと思っているのである。場合よっては「とか・・・・・。」などのような余韻を持たせた終わり方が絶対になかったかと問われるならば、いささか全否定の言葉に力が入らなくなってくる気のしないでもないけれど、恐らくそうした場合は文章の結論というか、エッセイの締めくくりの意味で読者に同意であるとか一定の反応を呼びかける場合に限定しているのではないかと思っているのである。

 ところが若いお母さんたちの会話は、そうした余韻を残すための手段として使っているのではなく、あいまいさのままを残したままで話を続けていくための手段に使われているような気がしてならないのである。

 気づいてみるとこれに類似した表現は、「しー、しー」も同じである。「あれもおいしいしー、これもおいしいしー、だれそれはこんなこと言ってるしー、そんなことはないと思うっしー・・・・・」、これだけで会話が成り立っていっているのはどうしても変だと思うのである。

 私たちが小学生の頃、作文や日記に「そして」を多用したことがけっこう多かった。「朝ごはんを食べました。そして川へ行きました。そして○○ちゃんと遊びました。そしてお昼ごはんを食べました。そして・・・」と事実だけを「そして」だけで羅列する文章は、けっこう先生に注意されたものだがなかなか抜けられなかったような記憶がある。
 そうした「そして」の使い方は、こうして大人になってからの文章を作るうえでも、けっこう残ってしまうものだなと気になることも多い。

 だから自分のことを棚に上げて他人の言葉遣いを批判するのは筋違いだとは思うし、逆に自分の表現の中にない使われ方だから特に気になるのかも知れないけれど、若いお母さんたちの会話のなかに出てくる「とか、とか」、「しー、しー」はどうも耳障りでしかたがない。

 学生などの若者言葉による自己表現は、最近の携帯電話のメール機能の発達とともに多様化しており、コミュニティ論などとともに時代を理解する手段として解説されることも多くなってきている。
 そうした言葉の多様性は一概に批判すべきものではないのだろうが、ひねくれ老人としてはどこかで日本語としての背骨みたいなものは残しておきたいと思い、そうした思いとは裏腹に最近の若者言葉は少し違った方向へ向かっているのではないかと気になるのである。

 10年経てば15歳の少女は25歳になるのだから、そうすれば娘がそのまま若いお母さんになることになんの不思議もない。
 とは言いながらも、私のこうした思いが変らずに引きずられているという背景には、その10年間でそうした若者言葉が大人言葉(こうした表現がいいのかどうかはともかくとして)へと変化しなかったという事実を裏付けるものでもあろう。
 それはそうした若者言葉が生き残るだけの力を持っていたというべきなのか、それとも変化を促すだけの外部からの力が弱かったからなのか、そこのところは分からない。

 だが、「とか、とか」、「しー、しー」を使った会話からは、どうしても当人たちの語彙の貧弱さ、表現の稚拙さなどが感じられてならないのである。そのことはつまり、「そして」を多用した小学生時代の作文から、なんにも成長していないような気がしてしまうのである。
 そして(私もつい使ってしまったが)、そうした貧弱さは力としての日本語の存在を貶めていっているのではないかと思い、10年で25歳になったお母さん、更に10年で35歳になるお母さん、そしてそして、いずれおばさんやおばあさんになっていく若いお母さんたちに、どこかで日本語の大切さを教えていかなければならないのではないかと思ってしまうのである。




                          2007.5.24    佐々木利夫


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とかとか、しーしー