税理士と言う商売柄もあって税金や財政などに関するメルマガ(メール・マガジン)数本を定期的に読んでいる。メルマガそのものがあらゆる分野に氾濫している時代だから、発信するほうも読者獲得のために様々な工夫を凝らして紙面づくりに励んでいる。そうしたメルマガのつい先日の記事にこんなクイズが載っていた(「ZAIKYO EXPRESS」、Vol28、'09.11.17大蔵財務協会)。

 「税金まめクイズ」

 公債金は年々増え、平成21年度は返済しなければならない国の借金は約541兆円となっています。この借金を私たちが納める税金だけで返すとしたら、約何年かかると思いますか。

            (1)  13年   (2)   53年   (3)  103年

 答 (1) 13年、国に入ってくるお金の約5割は税金ですが、残りの半分のうち約4割は「公債金」という借りたお金で補っている(参考:国税庁ホームページ)。

 国の税収が年40兆円を切るかも知れないと危惧されている昨今だが、公債発行残高541兆円を仮に40兆円で割ってみると答えは13.5となる。だとすればそうした意味でのこのクイズの13年は正しいのかも知れない。

 だが私はこの回答を読んで、それは真っ赤な嘘ではないかと思ったのである。確かに541割る40の答えは13.5である。その計算に何の誤りもない。だがこのクイズには質問の仕方とそれに対する回答とがまるでちぐはぐになっているのではないかと思えたのである。質問の仕方が「現在の公債金残高は国の税収の何年分に当たるか」と言うのなら、何の問題もないだろう。国の税収が40兆円という因子をどこかで記憶していなければ答を出すことは難しいかも知れないにしてもである。だがこのクイズの質問の仕方はそういった発想とはまるで異なり、「何年で返すことができるか」なのである。

 確かに国の税収の全部を現在の公債残の返済に充てるなら、その答えは13年で足りる。だが、考えても欲しい。税収の全部を借金の返済だけに充てることなど土台無理な話である。無理どころか不可能と言ってもいいのである。

 ダム工事や道路建設だって仮に新設は中断できるかも知れないが、少なくとも出来上がったものについては維持管理なしにはその機能を維持していくことすら困難だろう。それどころか税収の全部を借金に充てるとは、すべての公務員の給与を通勤手当なども含めてゼロにすることである。生活保護も学校教育も介護も福祉も、国の関与するあらゆるシステムを全て機能停止させることを意味しているのである。それも一ヶ月や半年や一年ではない。実に13年もの期間に亘る全面停止を意味しているのである。

 それは単に541を40で割って出す答の問題ではない。公務員の給与が高過ぎると言うならそれもいい。国会議員の報酬を下げると言うならそれもいいだろう。生活保護費が減額可能であり、教育への補助も介護への支出も医療への支援も減らすと言うならそれも認めよう。
 だがそれをゼロにすることなど絶対に不可能である。国がこれまで税金で賄ってきたすべての支出をゼロにすることなど、まさに荒唐無稽である。それにもかかわらずこの質問はそうした荒唐無稽である支出ゼロを前提に答を出しているのである。公務員には給与ゼロで今までどおりの仕事を続けることを予定し、生活保護者の全部に飢え死にを強要し、しかも納税者には現在の納税額を維持させる、そしてその期間を13年間続けることを正解の前提としているのである。

 税金の使い道にも無駄は数多くあることだろう。公務員にだって死に物狂いで働いている者もいるだろうけれど、まさに税金泥棒と呼ばれていいほどにも「何にもしない奴」だっているはずである。無駄な道路、無駄なダム、無駄な研究などなど・・・、税金の使い道の中にだって数え切れないほどの無駄が存在しているだろうことを私は否定するものではない。それでもその無駄の排除を税金の支出をゼロにすることで実現しようとすることなどとてつもない見当違いである。

 だとすれば「国の借金を税金だけで返していくには13年かかる」ことの意味をどんな風に理解したらいいのだろうか。だから私にはこの「13年」が丸っきりの嘘なのだと断言できるのである。どんなことをしたところで13年で借金の全部を返すことなど金輪際できないのである。この質問は不可能を答として求めているのである。

 どこまで可能かは分からないけれど、仮に税金の支出を10%減額できたとしよう。もちろん新たに国債を発行することは、この質問の前提そのものを否定することになってしまうから考えないことにする。その上での公共投資も公務員の給与も生活保護や介護支出も含めての10%カットである。そうやって浮いた4兆円のすべてを国債の返済に充てたとしても、その完済には130年を要することになる。この130年とは10%削減と言う状況をも130年続けることを意味している。もし20%を削減できたとしても65年である。それでも果たしてクイズの出題者は13年を「実現可能な回答」だと理解しているのだろうか。

 だからこの「税金まめクイズ」の答えである13年は、たった一つの解決法を除き実現不可能な真っ赤な嘘なのである。そしてその唯一の解決法とは何か?。簡単なことである。国民から徴収する税金をそっくり今のニ倍にすればいいのである。もちろん、そんなことがどんな政権であっても実現不可能であることくらい承知の上で言っているのだが・・・。

 ◎ さてこれは今朝の新聞記事である。
 「09年度の税収は当初見込みの46兆円から37兆円に程度に落込む見通しとなり、10年度も大幅な回復は見込めない」(11.30、朝日)。
 日本はこれからどうなっていくのだろうか・・・。



                                     2009.11.26    佐々木利夫


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