先週月曜日(18日)の更新記録のメモに一匹だけどこの季節始めての雪虫を見たと書き、つい先日の月曜日(25日)には同じ更新記録に昨日の日曜日の雪虫はうるさいくらいだったと書いたばかりだった。雪虫が漂い始めると初雪が近いとの噂を学問的に理解しているわけではないけれど、今年の初雪はまさにそうした言い伝えを実証することになったようだ。
書いた翌日の26日火曜日は、朝からちらちら窓の外を白いものがちらついていた。まだ積もるほどの量ではないし、傘を差そうか差すまいか迷う程度ではあったけれど、間違いなく私の知る今年の初めての札幌の雪であった。雪虫の伝承と今日の初雪とに直接の因果関係はないと思うけれど、それでも寒さの近づきを雪虫も動物の習性の中で綿毛を尻尾にまとわせながら残り少ない時を配偶者探しに飛び交っているのだろうか。
事務所の窓から眺めている昼間の雪はやがて風を伴って霙(みぞれ)へと変わっていくき、冷たいままに道路を濡らしながらも積もり始めていった。帰宅の時間になった。だが依然として風は強く傘が効くようには思えない状態で、とても歩いて帰れるような空模様ではないことから地下鉄で帰ることにした。そして翌日、霙はそのまま重たい雪へと変わり夜を通して少しずつ積もっていったらしい。自宅マンションの窓から眺める外の景色は昨日とは裏腹に白一色に変わっていた。
気象台の発表では昨日のちらちらを初雪と認定したらしいが、昨日の朝はともかく今朝の雪道には閉口してしった。まだ少し降り足りなかったらしく出かける時間になっても霙模様が僅かに続いていたけれど、傘なしでも大丈夫だろうと判断していつも通り事務所まで歩くことにした。ところが積もった雪はまさにぬかるみになって歩行を妨害した。気象台によれば今朝の札幌の積雪は7センチとのことだったので、それほどのことはないだろうとたかをくくったのが裏目に出たと言うべきかも知れない。テレビは路面電車の線路を除雪する「ささら電車」が初出動だと報じていたから、市街地はけっこうな積雪になっていたらしく我が住いの近くも7センチを超えていたのかも知れない。しかもその雪はたっぷりと水分を含み、融けて流れ出すほどまでには気温の上がっていない歩道の状態はまさにぬかるみそのものである。
車道はほとんど雪の気配を消しているが、歩道は人の歩いた足跡をそっくり残すだけで積もったままの姿を保っている。
事務所への徒歩による往復は夏冬問わずかれこれ10年近くも続けているから、雪道を歩くのも慣れているつもりである。しかも除雪車が間に合わない早朝の新雪などを除いて除雪されているかそれとも人が通って踏み固められていることが多く、ほとんどの場合硬い雪の路面になっているから足元が水浸しになるような心配はない。そこに錯覚があった。
今朝の積雪は、水ともつかず雪ともつかない混合状態のぬかるみで踏み込んだ足がそのまま沈むのである。しかも表面は雪に覆われていて、仮に路面の窪んだ場所があっても見えにくく知らずに足を突っ込むと足首近くまで埋まってしまうことにもなりかねない。
そうは言っても歩くと決めたのだし歩くにつれてJRの駅も地下鉄も徐々に遠くなっていき、逆に目的地たる事務所は近づいてくるので、歩き通すしかないとの意地みたいな心境が少しずつ強まっていく。
こうした雪道の歩き方は子供の頃の雨の泥道と同じである。私が幼かった頃、舗装などと言った洒落た道路はほとんどなかった。だから馬車でこねくり回された道路は雨が降るとぬかるみとなり、水溜りを避けながらの歩きになった。とは言え雨の日に歩く場合は必ずと言ってもいいくらい長靴を履いていたから、そんなにぬかるみを気にすることなどなかった。学校にしろ自宅にしろ、目的地に到着した長靴は中に水が入らないように気をつけさえすれば、じゃぶじゃぶ水で洗っておけばよかったからである。そんな子供の頃のことを考えながら歩いていたせいか、いつもなら50分弱で到着するはずの通勤が5分以上も余分にかかってしまった。
それでもふと気づくと、道々のななかまどのほとんどは葉も実もすっかり赤く色づいていて季節は既に秋を過ぎたのだと改めて知らせてくれている。降ってくる雪は時々止んで、間もなく降り止むだろうことをそれとなく知らせているにしても、空には相変わらず重く雲が立ち込め、いつもなら事務所方向に見える三角山も姿を隠したままである。事務所が近づいてきた発寒川も降ってくる雪を吸い込んだまま寒々とした流れを見せているし、そこから続く銀杏並木も落ちた葉に霙が白く重なり始めている。
札幌と洞爺湖を結ぶ中山峠の積雪は68センチだったそうである。今年はどこか変だ、暑い夏が続くと、ここへ書いていたのはつい先日だったような気がしているけれど、季節は確実に冬なのだとこの雪は知らせてくれている。どこかで秋を味わう暇がなかったような気がしている今年の10月だったけれど、雪虫もナナカマドの赤も、足首から入り込んだのだろう少し濡れて冷たくなった靴下の感触などなど、札幌にも間違いなく冬が訪れたのである。
2010.10.27 佐々木利夫
トップページ ひとり言 気まぐれ写真館 詩のページ