私が普通に知っている「携帯電話」(携帯)は、今では「ガラパゴス携帯」(ガラケー)と呼ばれているのだそうである。ガラパゴスとは南アメリカ大陸西海岸のエクアドル沖のガラパゴス諸島のことを意味し、そこに住む生物が近隣の島や大陸から隔絶していたことで独自の進化を遂げたことから、ダーウィンの進化論などで有名になった地域である。ところでガラパゴス携帯とは、日本が国際的なスタンダード性を無視して独自の発達を遂げた携帯電話のことを意味している。そしてガラケーの対極にあるのが「スマートフォン」(スマホ)であり、その機能が世界に共通しているのはスマホであって日本の携帯は日本人向けに独走してしまったガラケーであり、自己満足にしか過ぎないとの揶揄の意味を持っている。

 私にとっての携帯は、10数年前に僅か数ヶ月持っただけで手放して以来ご無沙汰のままだから、ガラ携もスマホもそれほどの違いはない。子供たちも孫もスマホになっているし、電車では若者の多くがスマホらしきものを操作しているけれど、傍から見ている限りこの両者にそれほどの違いは感じられない。「インターネットにつながっていつでもゲームができる携帯」程度の理解では、まだこの両者の違いが分ったことにはならないのだろうけれど、私の理解はそんなところで止まったままになっている。

 このスマホを使って、中学生らしい部活の仲間が、グループの一人を仲間がいじめている動画を撮影し、それをライン(基本的には登録した仲間内だけで利用する同時双方向の画像、メールなどを送受信するシステムらしい)と呼ばれるネットワークに流し、それが一般人に流出して問題となった。イジメが確認できる、まさに証拠の映像が多くの人たちに結果的に公開されることになったからである。

 さっそくマスコミも識者もこのことに目を向けた。もちろんメディアも識者も、その立場だけで「いじめ批判」の側に立つことに決まっているから、出てくる意見はどこも同じようなものである。これはあるテレビでの某大学教授の話である。「99%の子供たちが、携帯を正しく使っている。悪い人は僅かにしか過ぎない」との弁が取り上げられた。この99%の根拠をメディアも教授も示していないので検証することはできないが、言っていることは親や先生方が「携帯が正しく使われるよう指導しよう」というところに論点を置いて話していたのがとても気になってしまった。

 恐らく動画を投稿した生徒は、ラインという身内だけのネットワーク内での公開なのだから外部の人が閲覧することはないみたいな気持ちで、それほど罪の意識のないままに流したのだろう。それが結果的に「身内のネットワーク」を越えて、あらゆる人へと広がってしまったということであろう。「だから・・・」と識者は続ける。「一度ネットワークに流してしまった情報は、どんな手段を使っても発信者を秘することはできず、また情報を削除することもできないことを、スマホを使う人はあらかじめきちんと理解しておこう」。

 なんだかとても分るような気のする解説であった。だがすぐに、どこか変だと思った。この識者の意見は、「どんなに隠そうとしても、結局はバレるんだ」ということを言っているに過ぎないのではないかと思ったからである。匿名を使うのは発表者を秘匿しようとの意図によるものだと分らないではない。だから「隠しても分るんだよ」、「匿名でもアドレスを辿って行けば実名が分るんだよ」、「だからいずれはバレるんだから、そんなこと止めよう」との理屈は、なるほど筋が通っているかように思える。

 でも根っこは違うのではないだろうか。この投稿者が動画を「匿名で流した」のは事実なのだろう。だからその点を捉えて「頭かくして尻隠さずだ」と牽制をするのは、丸っきり無意味だと言うつもりはない。でもこの投稿者が「ネットへの公開」という実行をする前に、いくつもの間違いを犯していると思うのである。そしてそのことに識者がまるで触れない、もしくは気づかないふりをしているのは絶対に変だと思うのである。
 まず投稿者は、「イジメの現場にいて、そのイジメを自分のスマホで撮影していた」のである。誰かにスマホを握らされて強制的に撮影させられたということが考えられないではないけれど、そんな記事は載っていないので、恐らく撮影者は気楽な気持ちでカメラを向けたのであろう。

 「イジメ現場を撮影する」、そのことに撮影者が何の罪の意識を感じなかったことの方に、私は目を向けるべきではないかと思う。そして更に、「撮影したこと」や「投稿したこと」を問題視する前に、「イジメをするグループの構成員になっていた」ことの方がもっと重要であり、そこに目を向けないでスマホの利用方法や注意点などを解説するなどは、識者としても、メディアとしても、まるで本質的な視点を欠いたものになっているのではないかと思ってしまったのである。

 監視カメラが街中に普及して、「いつも見ているぞ」との脅迫が、犯罪を抑止する効果持つことを否定はしない。でもこのイジメ動画投稿に触れた大学教授の視点だけでは、「スマホを使った動画の公開」という行為のみを抑え込むだけの意味しかないのではないだろうか。
 いやいや、それしきの効果さえないかも知れない。ラインは基本的には登録した仲間内だけのネットワークである。「登録した仲間」という縛りがそれほど強いものではないらしいことがこうした公開という結果を招いているのだろう。アドレスが公開されていたり、グループ内の誰がが他のラインアドレスに再公開をしたり、外部からのグループへの参加が比較的簡単であったりするなど、グループの結束が必ずしも強いものではないと言われている。だから今回のような「ライン外への流失」という事態が起きたのであろう。

 ならばグループ内の結束を強くすれば、外部への流出は少なくなる。つまり、イジメ動画が自らの所属するグループ内のラインに公開されたとしてもそれは内部に止まるのであって、結束さえ強くすれば今回のような「バレる心配」は生じないことになるからである。私がイジメのリーダーなら、今回の動画流失の責任者を追及してグループの結束を高める方向へと向かうことだろう。もしそうなれば、この大学教授の助言は、イジメ防止どころかイジメの秘匿への加速を一層進める意味しか与えないことになるだろう。


                                     2014.1.2    佐々木利夫


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