水仙とニラは似ているが水仙は有毒なので気をつけろと、消費者庁が発表した(2018.4.12、朝日新聞)。外見が似ているので、誤って水仙を食べるなということである。言ってることは良く分った。ただそれに対して消費者たる私たちがどうしたらいいのかについて、この記事では具体的に示されていないことが気になったのである。

 写真入りの記事なので、この二つが似ていることはよく分かった。水仙は花としてしか知らないので、葉がニラとほぼ似ていることはその写真から改めて知.ることができた。ただニラが山野に自生していて水仙と混同して食べてしまうようなケースが現実にどの程度起きているのか、私には全く知識がない。

 さてそこで問題となるのが水仙とニラの見分け方である。水仙が有毒で、ニラが食用であることは分った。そして間違って水仙を食べることのないよう注意せよ、との消費者庁の注意喚起も分った。だが、どんなときに、どんな方法で間違うのか、そしてそれを回避するために私たちはどうすべきなのか、そんなことがこの記事は少しも触れていないのが気になったのである。

 分りやすい判断のきっかけは見かけであろう。だが、「似ているから気をつけろ」ということは、見かけからだけでは区別がつけずらいことを意味している。特徴のある形状、例えば一方の茎は途中が膨れているとか、もう一方は茎の根の方が特徴ある赤色を呈しているなどの違いがあるなら、「その部分に気をつけろ」ということで区別することは可能であろう。

 さらに例えば水仙様の花が咲いているものは食うなというのなら、それも分るだろう。だが、見たところこの両者にそれほどの違いは見当たらないように思える。つまり、外見からでは区別がつきにくいということである。だからこそ、こうした間違いが起きるのだろう。

 さて次は臭いである。ニラの食感がたまらない、という人がいるかもしれないけれど、少なくとも私の感触ではニラは「臭いを食べる」のが特徴ではないかと思う。もちろん臭いだけではなく、調理のしやすさであるとか、更には他の食材との相性などとも無関係ではないだろう。

 しかしニラの持つ独特の臭いが、好き嫌いはともあれニラ人気の背景にあるのではないかと思う。私は毎食欠かさず食べたいというほどではないけれど、どちらかというと好きな食材の部類に入っている。

 事務所でも、仲間との飲み会のつまみとして私が作る「ちぢみ」にニラは欠かせないし、その余りは卵とじなどで翌日の昼食のおかずになってしまう。また、自宅でも鍋料理の具材やみそ汁の具など、食卓に並ぶ機会は多い。

 ニラが私だけの好みでないだろうことは、例えばスーパーの食品売り場には必ずといっていいほど一角を占めていることからも分る。それはつまり、大げさに言うなら、痛みやすい(日持ちの悪い)食材であるにもかかわらず、けっこう多くの人がニラを好んでいるということの証左でもあろう。そしてそれは、あの独特の香りというか食べたときの口から鼻に抜ける臭いにあるのだろうと思っている。

 ところが、消費者庁の発表なのか朝日新聞の取材によるものなのか、この記事からは必ずしも読取れないのだが、「ニラには独特においがあるが、はっきりと区別できない場合もある」と書いてある。つまり、臭いからだけでは、水仙とニラの区別は難しいということである。

 さて、これで見かけからも臭いからも水仙とニラとの区別はつけ難いことがはっきりした。しかも、この両者の違いに関する記事はここで突然終わってしまうのである。「両者の区別は難しい」、これがこの新聞記事というか消費者庁の注意喚起の結論である。

 そしてこれに続く消費者庁の言葉が、更なる混乱を私たちに与える。こんなふうに続くのである。「食用と完全に判断できない場合は食べないでほしい。人にもあげないで」。

 ニラともども食べるなと禁止するのなら意味は分かる。区別がつかないのだから、万が一を考えるなら、ニラの食用も禁止するというのなら、その是非はともかく話は通る。

 だが、そこまで言うことなく記事なり談話なりを中断してしまったら、「この二つの区別はつかないけれど、万が一にも水仙を食べたなら、最悪死の危険があります。警告だけはしましたから、あとは自己責任としてどうぞご勝手に・・・。」と言っているのと同じではないのかと思ったのである。

 自殺しようとして「水仙を食べる人」にまで、責任を負えないことくらいは分る。だが消費者庁も含めてこの記事の意味は、「両方食べるな」ではなく「水仙を食べるようなことのないように」との警告だと思うのである。だとするなら、もっと具体的な区別方法を指示すべきではないのか。

 もし仮に、この二つの区別が外見からも臭いからも見分けがつかないのだとするなら、「自分の庭先のニラと似たものがあっても、食べたり人にやったりはするな」であるとか、「他人から貰ったニラは食べるな」などを具体的に例示し警告すべきだと思うのである。

 そして、更に言うなら、どんな場合にこの両者が食材として混同する可能性があるのか(例えば、道端での直売りの禁止なと)、市場やスーパーにおけるニラの流通に水仙が混入することのないような管理をしっかりさせた上で、「ニラは必ずきちんとした小売店舗からのみ購入したものを食材として使うこと」などを消費者に具体的に指示しないことには、こんな程度の言い方では私たちは混乱するばかりだけのように思う。


                                     2018.4.19        佐々木利夫


                       トップページ   ひとり言   気まぐれ写真館    詩のページ
 
 
 
水仙とニラ