記事の中で編集者は、コンピューターウイルスにはハッカーによる「人間くささ」があると言う(2019.2.5、朝日新聞、ネット点描、ハッカーのミスや勘違い ウイルス にじむ人間味、書き手は編集委員とされている)。

 この記事の中で彼は「・・・電子データから時折見えるハッカーの行動。だがその存在はなかなか表に出てこない。それがサイバー犯罪を現実感から遠ざけている。この乖離がいま、最も切実な問題である」と結論付けている。

 だが私はこの記事の中で、彼は何を言いたいのかが分からなくなってきたのである。コンピュータウイルスは人間が作り上げたプログラムである。どんなプログラムをウイルスと呼ぶのか、私にはまるで分からない。分からないけれど、人間の作り上げた記号や英数字の集合体である以上、それを個性と呼ぶか人間くささと呼ぶかはともかく、作り上げた人間の特徴が出るであろうことは分からないではない。

 それは「すりや詐欺の手口」、「万引きの手口」、「ピッキングの手口」などと同様、その犯罪者による癖というか特徴が出ることを言うのだろう。その癖なり特徴を、仮に「人間くささ」と表したところで別に構わない。

 泥棒の侵入手口を分析して、常習犯である「あいつの仕業に違いない」と目星をつける行為を、人間くささと表現したとしてもそれはそれで「常習犯であるあいつの特徴」を示しているという意味で、特に異を唱えるつもりはない。

 また、ある犯罪行為の残虐さに、その犯罪者のことを「人でなし」とか「人非人」と呼ぶことだって、認めたって構わない。

 問題は、そう呼ぶことで、何らかの結果に結びつくような契機となるかどうかだと思うからである。犯罪の手口は、そうした手口で犯罪を行う可能性の高い「ある特定の容疑者」へと誘導してくれるという意味で、手口を検証することの意味があると思うからである。

 または、こんなに残虐な手口の犯罪は、「あいつの仕業とは言えないだろう」という、容疑者から排除し除外する手法にも使えるかもしれない。

 ところがこの記事からは、「人間味」の意味するところが少しも伝わってこないのである。投稿者が言う「人間くささ」とは、プログラムの直接の効果や目的を意味しているのではないだろう。それはつまり、例えば「ある企業の極秘ファイルを覗く」というウイルスの目的そのものを指す意味ではないと言うことである。

 プログラムの目的とは、例えば円周率を1000桁まで計算するとか、原爆の製造技術や保存場所などをアメリカの軍事施設のファイルから、コンピュータを使って盗み出すことにある。だからプログラムの目的が、「人道的である」とか「人道的でない」などの違いは単なる目的の違いであって、プログラマーの人間味による違いなのではない。

 編集者の言う人間くささとは、同じ目的のプログラムであっても、例えば変数に特有の記号を使いたがるとか、プログラムの中にたとえ仮名にしろ作成者のサインを入れたがるなど、作成者の持つ固有の「癖」がプログラムに含まれることを言いたいのだろう。

 とするなら、「ウイルスににじむ人間味」とは、仮にウイルスを「悪」としそのウイルスを作成したプログラマーを「悪人」とするなら、そうした犯罪者たる特定の個人の固有の癖がプログラムににじみ出ていることを指す。そしてそれはそのまま、ウイルス作成者たる容疑者の検挙の糸口になることを意味するのでなければ、何の意味も持たないことになる。

 「プログラムには作成者固有の癖が出る」ことが真実だとするなら、その癖を探し出すことによって容疑者を特定できるのでなければ、その「癖」を探し出すことそのものに何の意味もないことになる。

 そうでなければ、投稿者がいくらプログラムには作成者自身の固有の癖があることを強調したところで、その癖を「人間味」と呼ぼうが、はたまた「人間くささ」と呼ぼうが、何の意味も持たないことになると思うのである。

 だから私は投稿者が投稿の結論に「・・・ハッカーの存在はなかなか表に出てこない。・・・この乖離がいま、最も切実な問題である」と書いたその真意が、一体どこにあるのかを確かめられないでいるのである。

 もしかしたら、筆者は「コンピューターウイルスには個性や人間味がない。だから、手口を分析類型化して犯人の特徴を割り出すことは難しい」ことを言ってるのだろうか。そうだとするなら、この記事そのものが成立しないことになる。

 それとも「癖を分類、集約していくことで、ウイルス作成者たる容疑者へ到達できる」ことを言いたかったのだろうか。それならそう、書けばいいのにどこにも書かれていないことと矛盾する。一体編集者は何を言いたかったのだろうか。


                                2019.2.20        佐々木利夫


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ウイルスと人間味