秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)


  秋好中宮は六条御息所の娘、つまり亡き皇太子の娘であり、身分的には高貴の出である。
 朱雀院は秋好中宮へ執心する。それを知る源氏は秋好中宮への好奇心を抱き、同時に朱雀院への対抗心をあおる。この背景には六条御息所がその死に際して源氏に、「この娘だけは愛人にしないで欲しい」と懇願した事が伏線としてあるのかも知れない。

 しかし、秋好中宮は登場当初から源氏を嫌い抜いており、源氏は彼女を恋人として屈服させることはできない。
 そのとき源氏は、意のままにならないならば、自分よりも劣る兄帝である朱雀院への秋好中宮のほのかな恋心を奪ってしまおうと考えるのである。

 この辺の源氏の性格はどちらかというと光り輝く貴公子というのではなく、更衣腹という低い身分に生まれ、その身分ゆえに自分の実力だけでは出世して行けなかった男の僻みと言うかいやらしさ、端的に言えば男の嫉妬があからさまに出ている場面でもあり、逆に言うと我々にも比較的理解しやすい場面でもある。

 さて、その受け入れられない愛への具体的な報復の方法は、彼女を至尊の位に押し上げて恋することも叶わぬ「聖女」にしてしまおうとすることである。そして、逆にそうすることによって光源氏の偉大さを知らしめようとするのである。

 秋好中宮と朱雀院は、再び相まみえることもなく、ただ一度出会った時(朱雀院の登王した際の斎宮の御代替りで秋好中宮が斎宮になることとなり、伊勢へ下向する時の別れの儀式の時)の思い出だけをよすがにして、プラトニックな不倫の姿を紡ぎ出すのである。