人 は 旅 人

  

旅には終わりがないという
旅にもいつかきっと
終わりを告げる時が来るのだろうが
人はいつも
見果てぬ明日を追い求め
山の向こうを夢見ている


 朱鞠内湖への旅


何かがわたしをむしばんでゆく
何かがわたしをからっぽにしようとしている
毎日、毎日、少しずつだけれど確実に・・・
ほら、この薄暮のなかで
わたしの実体さえも薄れていって
もう足もとから夕闇に溶けていっている・・・・・・

朱鞠内湖にこの足をひたすことができたなら
わたしはきっと満ち足りて、明日を信じることができる・・・

何の脈絡もなく
わたしは唐突にそう確信する
だからわたしは、わたしがなくなってしまう前に
朱鞠内湖への旅を急がなければならない
どうしても、
どうしても、
  急がなければならない・・・・・・


 ひとはいつも旅人だから

ひとはどんなときも旅人だから
 出会いと別れをくり返している
ひとはいつも旅人だから
 ひとりきりだということを思い知らされる
ひとは生まれたときから旅人だから
 いつかそのことを自分に確かめるときがくる
ひとは恋をしていても旅人だから
 時の移ろいのなかに背中丸めて涙ぐむときもある
ひとはひとりぽっちの旅人だから
 やせがまんして涙こらえるときがある
ひとはとても悲しい旅人だから
 陽気にはしゃいで胸はるときがある
ひとは傷ついた旅人だから
 痛み鎮めてくれる人をいつまでも待ち続けている
ひとは盲目の旅人だから
 見えない明日にかぼそいのぞみを託している
ひとは沈黙の旅人だから
 ときに迷子のように大きな声で哭いてみたくなる
そして、ひとは
   そのことを知りすぎるほど知っている・・・


 忘却の旅へ

それがたとえ
しがらみから逃げるための旅だとしても
考え抜いた純粋な旅のはずなのに
なぜか終わってしまった旅は
思い出の中にだけひっそりと閉じこもり
いつも通りの生活が
当たり前のように待っている
泣きたいほど大切な思い出なのに
ありふれたいつもの生活は
こんなにも強い力で記憶の扉を打ち壊していく
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 旅がいつまでも終わらないのなら、
エンドレスが旅の宿命ならば
わたしはそれに逆らえるだろうか
無為と倦怠の日々がわたしのさだめならば
逆らうことの罪を
  わたしは受け止めることができるだろうか
その罰に耐えることができるだろうか
もし毎日の生活を旅と呼べるのなら
わたしは既に耐え切れないほどの
罪を負っている
罰を受けている
ほかの人の幾倍も、幾十倍も
幾百倍も、幾億倍も・・・・・・・
少しでいい
羽毛ほどの軽さでいい
わたしの肩に
そっと息吹きかけて
しがらみの塵を払って欲しい
吐息のぬくもりで暖めて欲しい