現在継続している通常国会の会期は今週の土曜日(6.23)に切れることになっている。にもかかわらず現在の阿部内閣が抱えている法案は、例えば国家公務員の天下りを禁止する国家公務員法改正案であるとか年金記録の混乱などでもめにもめている社会保険庁の廃止や改革に関する法案、イラクへの自衛隊派遣を2年延長するイラク特措法案、教員の免許を更新制にするなどの教育関係三法案などなど山積しており、残り数日の会期では処理できないと与党自民公明は危機感を募らせている。

 このため手っ取り早く会期の延長だとの議論が起きるかと思えば、それは与党の身勝手だと野党は特定の委員長や内閣の不信任案などの提出までをも視野に入れた論戦がかまびすしい。

 こうした政治家の駆け引きには、与党も野党もともに本来あるべき政策論争をそっちのけにした党利党略ばかりが私のような素人にまであからさまに見えてきてうんざりしてくる。
 どうして「こうすればいい」、「このように手直しすればもっと良くなる」と、大向こうを唸らせるだけの論客のいないのがどうもやりきれない。審議している案件よりもよりよい内容を示せるならば、マスコミも専門家も多数いるはずだし、もっともっと我々俗人にも理解できるような内容を提示できるのならば与党だってそれを拒否することなどできないはずである。ましてや、法案の良否よりも提出時期にこだわることなどもってのほかではないかとすら思う。

 特に今度の国会には、来月に予定されている参議院議員の選挙が深くかかわっていて、5日間程度の延長ならば当初予想の7月22日(日)を変更しないですむがそれ以上の延長になるのなら投票日は一週間延びることになるらしいことから党利党略が一層目立ってきているような気がしている。

 ところで今日の話はそのことではない。つい4月に統一地方選挙が終わって、街頭演説や車での連呼がとりあえず静まったことにほっとしているのが、再び繰り返されるのかといささかげんなりしていることに対する話である。
 選挙運動の一こまに、立候補者が街頭や地域の有権者宅を回りながらなりふり構わず握手を求めて「よろしく」を繰り返す姿がある。

 そのことはそれでいいのだが、そうした姿をテレビにしろ実際にしろ見ていてどうにも気になることがあった。それは、どの候補者も握手する相手の目を見ていないことであった。ほとんどの候補者は握手しながらなに言か声を出しているようだ。恐らく「よろしく」とか「頑張ります」とか、あるいは「応援してください」などと伝えているのだろう。

 だが気になるのはそうしたほとんどの候補者の視線が、握手をしている相手ではなく次の握手をしようとしている人へと流れているのである。
 握手とは、握手そのものにもメッセージが込められていとは思うけれど、それは握手した相手と交わす言葉であるとか表情や仕草などのコミュニケーションがその握手と同時に表現されてはじめて成立するのではないかと思うのである。

 次に握手するであろう人へと目線を揺らしながらだったり、握手している人以外に意識を向けながら握手するというのは、本来握手が持っている伝達機能が伝わることになっていないのではないのだろうか。そんな姿勢は握手しないことよりももっと非礼なことなのではないかと私は思うのである。

 選挙なんてそんなもんさと言ってしまえばそれまでである。あまりの握手の多さに腱鞘炎のように手を傷めることすらあると半ば自慢げに話す候補者もいる。そのせいなのか、もしくは相手の手のひらの汗を気にしているからなのか、はたまた自分の汗の汚れを相手に移さないとする善意からなのか、握手もまた真っ白の手袋をはめたままである。

 20日に教育関連3法案とイラク特措法が参議院を通過した。どうしても選挙前に社会保険庁改革法案と国家公務員法改正案の成立を期して選挙を有利に進めたいとの思惑から、どうやら与党の意見は会期延長へと固まったようである。どうやら投票日は7月29日(日)になることは間違いなさそうである。

 恐らく選挙戦最大の争点になるであろう年金の加入記録のずさんさを巡る社会保険庁の対応には、抜きがたい公務員への不信が一層増幅されることだろう。特に加入なり掛け金の支払いなどの事実に対して、本来社会保険庁のずさんな管理が原因であるにもかかわらず加入者自身の申請なり出向くことを当然のこととして要求する態度には、つい以前に書いた「御用聞きとしての国」(17年発表、「思いつくままに」所収)を思い出してしまった。

 立会い演説会のビラの貼られた電柱が急に増えてきている。またぞろ選挙の騒がしさが戻ってくることだろう。明日は夏至である。投票日まであと一ヶ月と少々、握手する候補者の視線の揺らぎがあちこちで見られる暑い夏になりそうである。
 果たして国は変ることができるのか。変らなければならない時が迫っているのに、政治討論からも立候補者の態度からもそうした意識が少しも伝わってこない。



                          2007.6.21    佐々木利夫


            トップページ   ひとり言   気まぐれ写真館    詩のページ



選挙と握手