脳梗塞が再発して8年ぶりに入院したことは、5月13日の更新記録の中で既に自白したところである。5月8日(水)の就寝前に少しめまいがしたこと、蒲団に入ってから右腕がなんとなくムズムズして動かしても治まらないことが少し気になった。前回のときに右足がムズムスした記憶があり、それと関係があるのか少し気になった。しかし、当時の診断で覚えた「手のひらを上向きにして両手を水平に持ち上げ、そのまま眼を閉じる」という検査をしてみて、片腕だけが下がってくるという現象が特に見られなかったことから、脳梗塞の再発でないだろうと判断しそのまま眠りについた。

 翌朝も少しふらふらする感じは残っていたが大したことはなく、その日は飲み会の予定もあったのでそのまま事務所へ出た。普通に時間を過ごし飲み会も特に変ったところもなく23時頃には自宅へ戻りそのまま寝た。右腕のムズムズ感は残っていたが特に変な感じはしなかった。気になったのは翌朝、手帳にメモを取ろうとしたときである。字が書けないわけではないが、どうも筆圧の力が入らないのである。それでもそのまま事務所に行こうと家を出た。

 そしてエレベーターに乗りながら、今日が金曜日であることに気付いた。と言うことは明日、明後日は病院は休みであることである。特に異状は感じないけれど診察してもらったほうが安心できるだろうと、駅で事務所とは反対方向の前回の診察を受けその後も継続して投薬を受けている手稲渓仁会へ向かう電車に乗ることにした。病院では予約がないこともあって看護師から問診を受け、ともかくMRI(磁気画像診断)の検査を受けることになり、しばらくしていつもの担当医とは違う医師と面接した。

 開口一番、脳梗塞であると宣言され、入院治療が必要と言われる。ただ診察を受けた病院ではベッドの空きがないとのことで近くの脳外科専門病院を紹介される。いつも通り事務所に向かったと思っているだろう妻に、このことを連絡。紹介状や画像データを記録したCDなどを受け取ってとりあえず紹介病院へ電話する。事務所へ行くつもりだったこともあり、「用事を済ませてから夕方までには入院する」と連絡したところ、「とにかくすぐ来い。用件を片付ける時間がとれるかどうかは診察してから改めて判断する」との強制である。かばんを持ち背広にネクタイを締めたままのスタイルで、歩いて10分ほどの紹介された病院へ強制入院することになった。もちろん病院からの「すぐ来い」に、あわただしくタクシーで向かったのはいうまでもない。

 前回の発症以来、まじめに医師の指示を守ってきた私としては今回の発症は意外であった。毎日の自宅での血圧測定、そして血栓ができにくくなるというバイアスピリンの毎日の服薬、そして年に一回ではあるがMRIの撮影と医者が必要と認めた血液検査を続けてきたからである。もちろんそのほかにも血圧を上げないように塩分控え目で野菜を中心とした食事、毎日1.5リットル程度のお茶とコーヒーによる水分補給などの努力を続けてきたからである。

 だから8年間も再発しなかったんだ、などと言われてしまえば返す言葉もないけれど、血圧も120、75程度で安定していたし節酒も実現できていたのだから、まさかに再発を考えることはなかった。紹介された病院で、紹介した病院で撮ったMRI画像をパソコンのモニターで医師から見せられる。「ここが白くなっているでしょう。これが脳梗塞の位置です」と医師はこともなげに言う。確かに白い部分はあるけれど、脳の断面だといわれるその画像にはそのほかにもあちこちに白い部分が点在していて、どれもこれも脳梗塞の証拠写真なのかは私の目には分らない。医師も指定した白い斑点以外の部分には触れようともしないので関係ないのだろうか。つまりこの一箇所だけが脳梗塞で、他の白い部分は無関係ということなのだろうか。

 それに第一私の脳梗塞は8年前に続いての2回目である。毎年病院で年に一度MRIを撮って投薬の診断と合わせて医師から「特に再発はしていないようです」との言質をもらっていた。そのときの説明では同じようにMRIの画像を見せられながら、「この白いのは以前に発症した痕跡です」と言われていたはずである。私は同じ画面を見ながら、「あぁ、そうですか」と頷くだけである。その白い斑点の正確な位置や広がりや面積・濃淡の推移などを逐一記憶に止めているわけではない。ただ僅かに画面の中央部やや右下方にその斑点があったことを記憶している程度である。

 しかも今回示された画像の斑点の位置は、うろ覚えだが当初の斑点の位置によく似ている。医師はこの位置だと右側に麻痺が表れるというけれど、前回も右側麻痺だったので同じような位置に梗塞が表れたのだろうか。つまり、医師と私の見ている画像が今回のものだとの確信が私の中にないのである。つまり、8年前の痕跡画像を見ているのではないかとの疑問が湧くのである。

 先にMRIを撮った病院には私の8年間にわたる画像の記録がカルテとして残されているだろうけれど、「脳梗塞の再発です。すぐ入院してください」と言われ、当初の画像か再発の画像かを医師に確かめる余裕もないままに今回の画像の入ったCDを持参して紹介された病院へあわてて入院することにしたので、今となっては確かめようもない。まあ、「医者がそう言っているのだから・・・」と納得することも可能なのだが、どこか内心に引っかかるものを抱きながら、それでもネクタイを外して病院衣に着替えそのままベッドで点滴を受ける身になったのである。

 206号室、二階の窓際から入り口に向かって三台のベッドが二列ならんだベッド数6の部屋である。その一番奥の窓際が私のベッドとなった。窓の下には駐車場があり、それを隔てた道路一本の隣が小学校の校庭である。校庭の周囲に二本ばかり薄桃色の木が見えるが、今年は開花の遅い桜でもあろうか。
 5月10日金曜日、午後3時過ぎ、私はこの病室に拘束されることになった。看護師が早速手続きに来る。テレビや病衣や冷蔵庫などのレンタル、そして渡された入院計画書には二週間毎日4本の点滴、毎日一錠の服薬、4回のMRIの撮影と血液検査などの指示が書かれていた。懲役二週間、罰金額不明の始まりであった。そしてその入院計画書には、私がこれまで経験したことのない治療方針が一つ書かれていた。

 それは「高圧酸素治療」と呼ばれるものであった。こんな治療があることは知識としては知っていた。ただそれは例えば潜水病の治療、つまり海中から急浮上したときなどに起きる血液に気泡が生じるのをコントロールするためのもの程度の知識で、脳梗塞の治療に利用されていることなどまるで知らなかったのである。もちろん8年前の入院でもこうした治療を受けた経験はまるでなかった。

 この高圧酸素治療は初体験でもあり、とんでもない体験をさせられることになったので、その内容について稿を改めて少し詳しく紹介することにしょう。


                                    「高圧酸素治療体験記」へ続く


                                     2013.5.26     佐々木利夫


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脳梗塞が再発した