私がまだ子供だった頃、警告音というのは主にサイレンだった。街中に鳴り響く、「ウ〜〜・・・」と耳障りな音のサイレンである。もちろん時は第二次世界大戦の末期だったし、私の住んでいたのは石炭というエネルギーの主要供給地たる夕張と言う炭鉱町だっから、警告の主目的は空襲警報である。敵機が炭鉱を空爆する恐れありとする警告であった。

 戦争が終わるとサイレンの役割は、火事の発生を知らせる警告に変わった。それでも、不安を煽る効果を持つ音であることに変わりはなかった。サイレンの音は、今でもパトカーや消防車などで聞くことがあるけれど、不安な気持ちを呼び起こす効果に変化はない。また、時にサイレンは運動会や花火大会などの開会を知らせる音であることもないではないが、それでもその音にどことない不安を感じてしまうのは、私の年齢がそうさせているのだろうか。

 ある音を警告音と呼ぶか、はたまた「お知らせ音」と呼ぶかは、その音の目的や聞く人の状況によって様々だとは思う。

 それでも最近は商品宣伝文句の繰り返しも含めて、我々は様々な音の洪水の中で生活している。テレビから発せられる地震や津波警報、街頭放送や交通信号機からの音、更にはエレベーターやエスカレーターの音にいたるまで、様々な音が私たちの生活を支配している。

 しかもそうした音は、街中だけに限るものではなくい。私生活たる室内にまで拡大していっている。冷蔵庫はドアがきちんと閉まっていないと警告してくるし、電子レンジやガスコンロも調理終了、過熱のしすぎなどを警告してくる。トースターからストーブの果てまで、恐らく私たちの生活空間に存在するあらゆる機器から、何らかの警告(?)音が日常的に発せられるようになっている。

 私の持っているホールペンに付随しているデジタル時計にもそうした機能があるし、100円ショップで購入したキッチンタイマーや卓上時計も同様である。電池などで動くように作られている身の回りの家電や道具にも、警告かお知らせかはともかく、何らかの音による発信機能が備わっている。

 数日前に、妻と二人で事務所から自宅へ戻った夕方のことである。鍵を開けて室内に入ると、どこからか「ピッ」という音が聞こえてきた。音は一度きりだったのだが、一分もしないうちに再び「ピッ」と鳴ったのである。

 とりあえず気になったのは、がスコンロ、ストーブなどの火の気、そして冷蔵庫の開けっ放しであった。それは大丈夫のようである。耳を澄ますと、どうもその音は我が寝室から発せられているように感じられる。火災などの心配はないようなので、部屋着に着替えてから原因を探ることにした。その間も一分弱毎に「ピッ」音は定期的に鳴りつづけている。

 さて寝室の点検である。だが寝室には、コンセントにつないだデジタル式の夜光時計、そして同じく枕下を照らす読書灯くらいしか置いていない。耳を近づけて見るが、それらから「ピッ」音は聞こえてこないように思う。でもその二つしか音を発するような機器は、寝室には見当たらない。

 一分弱毎に発せられるその音は、しばらく聞いているうちにどこから聞こえてくるか分からなくなってくる。仕方なく時計と読書灯をコンセントから抜いてみる。それでも音は止まらない。でもそれしか原因機器は考えられない。では一体どこから聞こえてくるのか。

 内蔵されている電池などの関係から、コンセントから外すだけではその音を止めることができない場合があるかもしれない。それでその機器を別室へ持っていく。そこまですれば、少なくともその音が別室か寝室のいずれから聞こえくるかくらいは分かるだろう。別室に音が移動すれば、その機器が犯人である。

 でも、でもである。音は依然として寝室の方から聞こえてくるような気がする。そんなことはないと思うのだが、例えばベッドに持ち込んだ100円ショップのデジタル時計を布団の中に忘れてしまっていたことも考えられる。また以前に使っていた電池式腕時計などが布団やベッドの隙間に紛れ込み、今になって電池切れの警告音を発しいてることだって考えられる。

 ベッドを分解することにした。毛布を引っ剥がしてして別室へ持ち込む。敷いているマットレス、その下の板など、ほぼベッドを分解して寝室から運び出す。かくして我が寝室は洋服ダンスと和ダンスのみを残し、空っぽの状態になった。

 何たることか、それでも「ピッ」音は依然としてわが寝室から聞こえてくるような気がする。二つのタンスの中を調べることも考えたが、和服、洋服、下着、靴下などなど、タンスは夫婦の衣類の集合場所である。そんなに簡単には、点検や引越などをすることはできない。

 「ピッ」音は続いている。タンスに耳をつけてみるが、どうも音はその中からではないように思える。しかし寝室はタンスを除き空っぽになっている。

 ここまでしたのに、原因が突き止められないまま、「ピッ」音は少しも弱まることなく続いている。そして原因を探し続ける私の頭に、思いついたことがある。原因は寝室ではなく、隣室にあるのではないかとの思いであった。

 原因追求を始めて約小一時間が経った頃だろうか、突如として音が消えた。何かを動かしたとかスイッチを切ったなどの「ピッ」音停止につながるような動作をした記憶はない。にも関わらす、突然音が消えたのである。

 それならそれでいいやと思う。何らかの原因で「ピッ」音のスイッチが切れたのか、それとも「ピッ」音を出している機器の電池が切れたのか、いずれにしても音かしなくなったのだから、結果論ではあるし、少し割り切れない思いは残るけれど、一件落着になったからである。

 移動したベッドや時計などを元へ戻し、「ピッ」音の捜索は終了させることにした。やれやれ、人騒がせな音である。数時間が経ってもも「ピッ」音は押し黙ったままである。まさに一件落着したのである。

   「ピッ」音はこれで終わりませんでした。「電子警告音の怪〜2」へ続きます。


                    2019.11.7        佐々木利夫


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電子警告音の怪〜1